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2011 - 7 / 1
狩場山 真駒内コース 敗退
撤退を決める理由というのはいろいろある。
道を見失うことだったり、時間切れだったり、難所を通過する技量がないことだったり、怪我だったり、まぁとにかくいろいろある。
でも今回ぼくが、狩場山の途中で撤退した理由というのは、自分でもはっきりこれだというのが分からないのだ。
直接のトリガーとなったのは、残雪斜面のトラバースに危険を感じたことだ。
突っ込めば高確率で滑落してただろう。
安全に通過するための装備はなかった。
でも、もしアイゼンとピッケルを持っていたとしたら、ぼくは先へ進んでいただろうか。
分からない。
もうその時点で、ぼくはそうとう疲れていた。
体力的なことではない。
そこまでの道のりを振り返り、また同じルートを戻ることを想像すると、いっきに気力が萎えていくのだ。
それくらい'いろんなこと'があったし、同じ数の'いろんなこと'をもう一度味わわなきゃならない。
もう沢山だ。
ここまで来られたらじゅうぶんじゃないか。
そう言って、きびすを返した、狩場山真駒内コースの、これは負けた記録だ。
真駒内コースの登山口には、立派な無人小屋と野営場がある。
その名も「熊戻野営場」。
すぐそばの谷は熊戻渓谷と呼ばれている。
熊戻渓谷

送り仮名をどう付けるかによってだいぶ意味も変わってくるが、険しい渓谷で熊が戻っていった、が語源だと思うことにする。
熊がいてテントに戻れないとか、追い払ったはずの熊が戻ってきたとか、熊さん早く山に戻ってくださいとかではないと、思う。
たぶん。
驚くべきことに、ぼくが今シーズン最初の入山者。

もちろん、記入せずに登る人もいるわけだし、本当に最初かどうかは分からないけど。
狩場山とこのコースのことについて、少し説明することにしよう。
狩場山には、現在3つのコースがある。(過去には5つあったが2つは廃道になった)
距離も短く難所もない、最も一般的な千早(ちはせ)新道コース。
海からの長大な尾根を辿る茂津多コースは、ルートは平易だがヤブが深い場所があるという。
そして今回歩く、真駒内コースだ。
真駒内コースは、枝分かれの激しい尾根に乗ったり下りたりトラバースしたり、地図をながめてるだけでイヤらしい箇所がいくつも見えてくる、そういうルートだ。
1989年発行のアルペンガイド北海道の山によると、残雪期は非常に道に迷いやすいとか、6月までは雪が多くザイルがあった方が良いだとか、全コースでヒグマ出没の危険があり十分な対策が必要とか、ろくでもないことばかり書いてある。
それでも当時はこれが一般コースだったのだ。
新道コースが開削された現在は入山者もほとんどおらず、本州の登山地図でいうところの破線ルートと同レベルの荒れかただろう。
狩場山としての山開きは、7月の第2日曜日。
これは道内の山で最も遅い山開きになる。
ではそろそろ山に登るとしよう。
真駒内川にかかる、よく揺れる吊り橋を渡って5分と経たないうちに、道が消えてしまった。
(帰路に撮影。だから少しだけ道っぽくなってる。)

あたりはブナの原生林なのに、ここだけがパイオニア植物で埋め尽くされている。
何年か前に土砂崩れかなにかが起きたのだろう。
そのとき登山道も一緒に流された。
そしてその後、道を整備するものが誰もいなかった、ということなのだろう。
尾根に取り付くまでの区間、こういう場所が次々に出現する。
結局、この区間でのルートファインディングと通過に、40分もかかってしまった。
(帰路に撮影。だから少しだけ道っぽくなってる。)

尾根に上がるべく直登してみたり、先行者の足跡を探してみたりしたが、手がかりはなかった。
高度を維持してまっすぐ突っ切れば良かったのだが、地面はあまりに脆く、そして急だった。
イタドリやウツギの枝を掴んでないと、ずるずると谷に引き込まれてしまう。
アザミを掴んだらハズレ。
そういうヤブなのだ。
ヤブ地帯を抜け、右側の尾根に取り付く所まで来ると、ようやく踏み跡は明瞭になる。
ただ、急斜面に付けられたスイッチバックは、踏み跡として明瞭だというだけで、重力に対して真っ直ぐ立てるわけではなく、草を引っ掴んで直登するのとなんら変わらない酷いものだった。
しかし、ここをなんとか這い上がって尾根に出てしまうと、今までの悪路がうそのように、すばらしいトレイルが現れる。
この上なく歩きやすいし、適度なアップダウンがあって飽きないし、それになんといってもブナの森の美しいことといったら。
あまり知られていないが、じつは狩場山系のブナ原生林は、日本一の蓄積量を誇るのだそうだ。
坪田和人さんの著書「ブナの山旅」によると、狩場山の東に広がる賀老高原は、和賀岳(秋田、岩手県境)、浅草岳(福島、新潟県境)についで第3位となっており、世界遺産のあの山よりも評価は高い。
ちなみに同著には、この真駒内コースも別枠でエントリーされている。
「道南最深部の山で熊におびえながら尾根のブナを訪ねる」という、せたな町からクレームが来そうな紹介文とともに。
ん?。熊・・・。
そう、熊なのだ。
見とれてしまうほど美しい、白い樹肌のブナ林の平穏も、長くは続かない。
アルペンガイドに「十分な対策が必要」と書いてあった、アイツのお出ましだ。
残念ながら、熊臭は写真に写らない。
中には、どう見ても10分以内に落とされたばかりだろうという、新鮮な熊糞もいくつかある。
ネマガリの上物を食ってるんだな。
いっきに緊張感が高まる。
だがそれも、最初の内だけだった。
熊糞なんて、10や20じゃきかない。
歩けども歩けども、熊糞。
山頭火なら、分け入っても分け入っても熊糞、と詠んだに違いない
あいつら、歩きながら糞してるんじゃないか?。
はじめは踏まないように注意していたが、一度踏んづけてしまうともうどうでもよくなった。
ドンと来い熊糞!。
ここは熊の下水道だ。
標高850mあたりから、シラカバがあらわれ始め、だんだんとブナは見られなくなる。
遠望もきくようになり、狩場山の前衛峰も捉えることができるようになったが、残雪も増えはじめた。
再び道が消える。
一歩踏み出すたびに足元が崩れていく。
ネマガリをしっかり抱いて、お祈りする。
この石なら動かないだろうと体重を預けたら、石の周りの地面ごとすべり落ちていく。
そしてこれまた、崩壊地は1箇所だけでは終わらないのだ。
標高1100mを越えると、もう雪の上を歩くほうが多くなる。
腐った雪なら歩けるが、半分は氷化し、半分は硬く締まった雪だ。
ストックを雪面に刺し、やわらかい所を探りつつ、足場を作りながら進んでいく。
難所はさらに続く。
かすかにそれと分かる踏み跡をたどって笹薮を抜けると、目の前にドーンと、引き返す理由としては十分な雪壁があらわれる。
上の方は雪庇の名残だろう。
10mくらいの高さがあるから向こうは見えない。
これを登ったら快適な稜線のトレイルになるかもしれないと、根拠のないポジティブな意見が舞い降りる。
あぁ、人はこうやって深みに嵌っていくのだ。
幸いというか、下は濃密なネマガリの藪だ。
滑ってもそこで止まる。
一度でも滑落したらやめると決めて登り始めたら、滑らなかった。
しかし、登ってはみたけれど、快適なトレイルなんてあるわけがない。
もう帰ろう。

今の壁に比べたら斜度はぜんぜん小さいけれど、あそこで滑ったら千早川の源流まで落っこちるしかない。
とにかく雪がガチガチに硬いのだ。
ダガーポジションでカニ歩きとか、頭では考えても、手元にストックしかないのだからどうしようもない。
ヤブを漕ぐのももうたくさんだ。
帰ろう。
十分歩いたし、また同じだけ歩かなきゃいけない。
さっきの壁を降りるとき、見事に滑り落ちる。
ちゃんとネマガリ藪に突っ込んで止まったけど、肘を強打してアイタタタ。
帰り道のことは、ビデオテープを逆再生するのと同じだ。
雪渓は行きの踏み跡のおかげで迷わなくてすんだけど、ぐずぐずの崩壊地でまた肝を冷やし、熊糞はなんだかちょっと増えてるな。
最後のヤブは、もうどこを通ったかなんて覚えてない。
帰ってからGPSトラックを見たら、往路と違う場所を突破してきたらしい。
ぜんぜん気付かなかったよ。
吊り橋が見えたときは、心底ほっとして、腰が砕けそうになった。

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登る前から予想はしていましたが、狩場山の真駒内コースは、いまやぜんぜん一般コースではありませんでした。
たぶん、何の心づもりもしないで入山したら、歩き出して5分の、道が突然消える場所で引き返していたと思います。
ポイントとなるのは、この最初のルートファインディングや崩壊地の通過、上部の雪、ヤブ、それに熊でしょう。
上部の雪渓については、アイゼン・ピッケルがあれば突破は可能ですが、時期を少しずらすだけでだいぶ違う結果になったと思います。
おそらく、あと1週間遅ければ(つまり明日明後日なら)、雪渓は縮小し、雪壁は低くなり、埋もれている夏道もだいぶ顔を出しているでしょう。
さらにもう1週間遅くなると、そのころには残雪について気に留める必要もないかもしれません。
逆に2週間ほど早い時期に登れば、1000mより上は雪が繋がっているはずです。
その時期ならアイゼンとピッケルは持つことになるし、そうなればコース取りは自由になります。
わざわざ千早川源頭の斜面をトラバースしなくても、尾根通しで雪陵を進むことができれば、その方がよっぽど安全です。
ただ前半の道が消えてしまっている区間や、中間部に連続する崩壊地、いたるところのヤブについては、再整備されるか、山開きのあと入山者が増えてトレースが出来上がるまでは、難所のままでしょう。
地図読み、ルートファインディング、薮漕ぎ、そういうのが好きな人でないとキツイと思います。
熊については・・・。
さすがに今回は鈴を持っていきました。
磐梯山の山頂小屋で買った土産用の鈴なので、効果があったのかどうかは分かりません。
熊ビーコンとかあったらいいのに、とずっと考えながら歩いてました。
参考までに、これは下流の矢淵橋からみた狩場山の前衛峰です。

歩いた場所の雪は、ほとんど隠れて見えてませんが、この写真のような雪型が見えている時期は、上部の雪は今回の記事のような感じになっているという目安にはなると思います。
麓から見るよりも、上の方はずっと雪は多いです。
こういうコースがお好きな方は、お早めにお出かけくださいまし。
もしもう一度やるとしたら、ぼくはもう少し雪が多いときに行きたいと思います。
でも今はお腹いっぱいなので、しばらくは遠慮しときます。
ホント、疲れたんですよ。
登山日:2011年6月26日
投稿者 hamayo : 2011年7月 1日 00:45
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久々に遊びに来ました。
そして・・・大笑いした!!
熊糞で始まり熊糞で終わる。日高や知床にも似た環境が都会の傍でも存在することに驚く。
ただの藪は嫌だなぁ~~~沢を詰めて行きピークまでの藪だから我慢できるのよ。
まぁ藪好きとうマニアックな人もいるけどね・・・・
hamayoワールドの山レポはいつ見ても楽しい。
最近はPCも開かないことも多くて。
楽しそうな記事がイッパイだけど、雨の日の楽しみに取っておきます(^o^)丿
狩場山は、けっこう侮れないんだわ。熊については。
ブナの大森林が広がる山ってのも、大雪や日高や知床とはぜんぜん違う環境なんだけど、それが関係してるのかもしれないね。
なんたってドングリは熊の大好物だから。
人があんまり行かないルートを歩けば、どうしてもヤブ漕ぎは増えちゃうよ。
でもやっぱり、ご褒美は必要だよね。
すっごい展望の山頂とか、そーゆーご褒美。
真駒内コースにはご褒美はないわ(笑)。
雨の日?。
今年はサングラス買っちゃったから、もうあとは雨ばっかりだよ。
サングラスの出番はないわけさ。