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2008 - 10 / 6
ニセコ山中で隠密野宿
夏の盛りには「はやく雪降れ」などと口走っていたのに、秋が深まってくると「もうちょっと待ってくれ」という気持ちが優ってきたり。
ま、そんなもんだ。
なわけで、まもなく冬を迎えるニセコの山の中に、露営用具をいっさい背負って行ってまいりました。
隠密野宿。
ここでぼくが野宿していることは、誰も知らない。
凍死しても、クマに食われても、誰にも分からない。
そんなデカいテントじゃバレバレだ
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■雪化粧
秋の空は開放的だ。
麓の畑では休みなく農作業が行われている。
この雄大な独立峰は、天井の高い秋の空のもと、いつもより機嫌がよさそうに見える。

羊蹄山の上部は早くも白くなっている。
あの場所からは、もう秋は去ってしまったのだ。
こことは違う世界には、きっと不機嫌な風が吹いているのだろう。
山頂部に雲がまとわり付いているのが少し気になる。
今日も明日も、雨は降らない予定なのだが。
■ククルカンのピラミッド
上富良野岳の階段が段数を語るなら、こちらは段高で勝負を挑もう。
メキシコ・マヤ文明の、ククルカンのピラミッドを髣髴とさせる、急峻な階段。
そして一段一段の段差が、とても高い。

強引なストレッチは体を痛めるとは良く聞くが、ここの階段はまさにその強引なストレッチそのものだ。
ハムストリングが鳴き、股関節が軋む。
脇の斜面に逃げたとしても、ズリズリとすべる足元に耐え切れず、すぐにまた階段に戻ってくることになる。
このトレイルで最も体力を消耗するのは、スタート地点にあるこの階段だと、断言できる。
■錦秋、秋色
今年の紅葉は、色の乗りがイマイチ良くない。
くすんでいる。
錦秋などとはとても呼べない。
秋色、くらいが相応しい。

好みの問題ではあるが、赤一色とか黄一色とかよりも、常緑の緑にバランスよく色が混ざっているほうが良い。
そこにシラカバの白い樹肌や、うねるハイマツの黒い幹が見え隠れすれば、もういうことはない。

■火口原
目の前はガレの登り。
このあたりも野宿するにはよさげだけど、最低限あそこまでは上がらないと、沼めぐりハイカーの目に留まってしまう。

広いガレ場を登り終えると、山頂火口の一角に出る。
火口原は丸くて平ら、野球場のグラウンドぐらいの広さだろうか。
そう思うと外輪山が観客席に見えてくる。

外輪山は馬蹄型をしており、南西部分が切れていて、少し下がった先にもうひとつ小さな広場がある。
こちらは火口原というよりは、火口に溜まった液体があふれて流れ出したような雰囲気。
上の湯、下の湯、みたいな。
どちらも黄灰色の火山灰土と、多孔質の軽石で埋め尽くされていて、砂の湖のように見える。
フカフカでザクザク。
さらに歩く。
■ぎりぎりセーフ
雲行きが怪しい。
日没の時間を考えると、そろそろ寝る場所を探さないといけない。
足元にはいくつものクリークが走っている。
大きなものは幅1m、小さなものは10cmくらい。
いまは涸れてるが、ひとたび雨が降ると水路になる。
そんなところにテントを張るわけにはいかない。
クリークがなくて、平らなところでも、周りより低い場所はいけない。
それは水たまりの跡だ。
30分くらい歩き回って、地図が描けそうになるころ、場所を決めてテントを立てた。
クリークが枝分かれして、中州のようになった場所で、そこだけ少し高くなっている。
ここ最近、水に洗われた痕跡はない。
でも考えてみれば、今日はHEX3だった。
床がないHEX3は、障害物があってもそれを取り込んで設営できる包容力がある。
テントの中に、水が流れるクリークがあるなんて、風流かもしれない。

最低限のペグダウンをほどこし、中に入ったら、ちょうど雨が降ってきた。
西の空は真っ黒だ。
ぎりぎりセーフ、なんとか間に合った。
■雨の日のテント生活
雨はしとしと降っている。
やむ気配がないので、外に出る気にはならない。
雨の日のテント生活は、退屈だからと嫌う人が多いけど、ぼくはぜんぜん嫌いじゃない。
やるべきことはたくさんあるし、なにもせず横になって雨が降るのを見ているだけでも、小さな発見に心躍ったりするものだ。
そんな中でも、コーヒーを丁寧に淹れる作業は、この上ない至福の時間。
今日のために用意したのは、コスタリカ産の特別なコーヒー、カフェティン・サン・マルティン。
焙煎器を持ってこなかったことは悔やまれるが、2日前に焙煎しておいたとっておきの豆は、今日ちょうど飲み頃になっていた。

柑橘系のフルーティな酸味が、このうえなく上品な飲み口だが、おやつに持ってきたオレオには全然合わない。
テントのそばで山ほど実ってる木の実は、甘すぎてこれまた合わない。
というか、こんなに木の実あるのなら、紅茶を持ってくれば良かった。
雨は降ったり止んだりだ。
■夕照
夕方になると、外が明るくなってきた。
西の地平線付近は雲が薄いので、日没間近の太陽がここを照らしてくれたのだ。

でもそれは、ほんの一瞬だった。
ふたたび太陽が雲に隠れると、テントの周りの気温はぐっと下がりはじめる。
それと同時に、風景は急速に明るさを失い、まもなく夜がやってくることを知らされる。

夕食前に、周囲の尾根をぐるっと一周。
雨が落ちてこないうちに、斜面を駆け下りてテントに戻る。
■幻のパエリヤ
夕食は鍋焼きうどん。
鍋焼きうどんが食べたかったわけではない。
食べたあとの鍋を使って翌朝パエリヤを作るのだ。
中学生の頃は、コッヘルを買う金など無かったから、よく鍋焼きうどんのお世話になった。
食べたあとの鍋で粉スープを戻したり、袋ラーメンをゆでたりしたものだ。
でも昔日を懐かしんでいる場合ではなかった。
緊急事態。
鍋焼きうどんのアルミ鍋の底に、小さな穴が空いている。
点滴のように、規則正しく一滴一滴うどんつゆのしずくが垂れてくる。
このままじゃうどんが茹だるころにはカラッポだ。
ソフトクリームのコーンの底をくわえるみたいに、ちょろちょろ食べるわけにもいかない。
まもなくうどんは、極小コッヘルの中に押しこまれ、うどんとしては食べられるものが出来上がった。
だけど鍋は使えない。
かくしてパエリヤは、幻となった。
■死の湖
雨がやむと風もおさまった。
静かすぎる。
雪洞の中のような、閉鎖的な静けさではない。
天球は無限の宇宙に向かって開いてる。
広漠たる静けさ。

何にも聞こえない。
木の葉がすれ合う音、動物の足音、水が流れる音、なにひとつ聞こえない。
それだけじゃない。
生き物の気配や息づかいといった、生命の感触がまるで感じられない。
山で泊まった夜は、獣の気配を肌で感じて、いつもより少し緊張するのが常だし、それが楽しみでもあるのだが、今夜ほどそれが感じられない夜は初めてかもしれない。
無機質な夜。
月面には「死の湖」という名の地形があるが、ここのような場所なのだろうか。
命あるものはすべて飲み込まれていく。
静かに飲み込まれていく。
気が付かないうちに。
そしてぼくもまた。
■飛礫
真夜中に目が覚めた。
雷雲は去ったようだけど、強い風が吹いている。
パツパツと、幕体を叩く音がする。
嵐がやってくる直前に、晴れた空から大粒の雨がまばらに落ちてくることがあるけど、そんな感じ。

HEXの裾をめくって外を見るが、雨が降っている様子はない。
星が出てる。 ・・・「パツ」
また何か当たった。
正体は、雨粒じゃなくて、小石が風に飛ばされてテントに当たる音。
ここは火山だ、軽石はいくらでもある。
ここの石はほとんどが軽石だから、今日のような強い風が何日も続くと、景色が変わることもあるかもしれない。
砂漠みたいに。
でも、ちょっとうるさいな。
■だめだこりゃ
朝は雨とともにやってきた。
どしゃ降りだ。
そしてすさまじい風。
辺りはガス、というか雲の中。

「参天は冬にしか使わないよ」とぼくが言ったことに機嫌を損ね、「竜巻でも飛ばされなかった実力を見せてやる」とHEX3が息巻いているかのようだ。
もう分かったからいいよ。
風にはビクともしない。
シルナイロンは一滴の水も通さない。
でも結露でびしゃびしゃだ。
横殴りの雨だと、ベンチレーションから風に乗って雨が入ってくる。
そんなところだ。
こんな天気じゃもう下山するしかあるまい。
あ、雨なんてたいして降らないと思って、ソフトシェルしか持ってきてないや。
■びちょびちょだ
ザックの中は、シルナイロンで完全防水。
カメラもレンズも、ジップロックを二重にして防水。
だけど自分の体はソフトシェル。
雨は通さないけど、ザックのハーネスに締め上げられたところから、じわりじわりと染みてくる。
トレイルは川になってた。
水はけのいい火山灰土も、これだけ降れば保水しきれない。

雨の日の紅葉もまたいいもんだ、などというのは帰ってきてから思うこと。
秋の山で雨に当たるのは、惨めなことこの上ない。
寒い、冷たい。
パエリヤが食えなかったから、行動食しか口にしてない。
だからよけいに寒い。
これじゃ修行だ。
■温泉に感謝
もう楽しみといったら、下山後の温泉しかない。
五色温泉が待っている。
冷たいガレ場を通り、豆乳色の水が流れるトレイルを渡り、ククルカンのピラミッドを下ると、ようやく下界が見えてきた。
なぜか雨は小降りに。
遊歩道の先に五色温泉。

下山したのは8時30分だが、五色温泉は朝8時から入れるのだ。
誰もいない平日の朝の露天風呂。
雲の中から出たり入ったりするアンヌプリを見上げながら、2時間ちょっとの湯浴み。
芯まで冷え切った体もぽっかぽか。
温泉のありがたみは、こんな目に遭えばなおのこと強くなる。
サンクス、五色温泉。
そしてイワオヌプリ。
投稿者 hamayo : 2008年10月 6日 21:02
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こんばんわ。
テントを張った場所は、まるでパリテキサスみたいで素敵ですね。
生と死の境目みたいな所、好きだな。
2時間の湯浴みって・・・カラスの行水である僕には無理です。
でも、生命の感触が感じられない夜というのは体験してみたいかも。
東京はいまだに鈴虫の声が聞こえます。
to こけし先生さん
こんばんは
こけし先生さんは古い映画をご存じなのですね。
テキサスのパリも岩と石と砂の世界なんでしょうか。
山は昼間に登っても、街にいるいつもとは違った心持ちになりますが、山で夜をすごすと昼間とはまったくちがうものが感じられて、朝起きると文字通り「生まれ変わったような」気持ちになります。
死は暗闇とともに近付いてきて、夜がぼくの命を持ち去り、翌朝ふたたび太陽が新しい命を届けてくる、そんなふうに感じました。
実際は朝に運ばれてきたのは土砂降りの雨でしたが(笑)。
to バオヤッキーさん
ぼくも普段はカラスの行水です。
いくら温泉でも、よっぽど興が乗らないと長湯はしないですねー。
この日は早朝で誰もいなかったし、体は冷え切ってたし、それになんといっても絶景の露天風呂だったしで、けっこう長く入ってました。
この季節、週末になると車が駐められないほど大勢の人がやってくる温泉が、2時間ひとりっきりっていうのは奇跡でしたし。
> 生命の感触が感じられない夜
なんか人工的に作った映画のセット的というか、他人の夢の中の風景的というか、脳に電極差し込まれて見ているバーチャルな景色のようというか、不思議な夜でした。
ふだんだと葉擦れの音に心臓バックンバックンになったりするのに(笑)。
どーも、おばんでしゅ。
今年の紅葉は早いって聞いていたけど・・・嗚呼、素晴らしいっすわ(感動)。
おおっ雨の朝!・・・そろそろ本領発揮ですかな(笑)。
にしても、秋の冷てー雨にあたった後の温泉って、タマランですよな。
まぁ、ある意味この雨も、よりいっそう温泉を身に染みいらせる為の自然からの贈り物だったりして(思考は常にポジティブに、ポジティブに・・・)。
なワケねーか(笑)。
美しい紅葉ですね!赤・黄・緑のコントラストが素晴らしいです。高い空と白い雲も・・・。ザックが重そうですね。雨とはついてないなあ~!でもゆっくりこだわりのcoffeeが飲める至福のひと時は良いですね。こんな時は温泉が女神さまに思いますよね。北海道にもこんな素晴らしいところがあるのですね^^。
ボーイスカウトにあるような古めかしいテントを使っておられるのですね。秋の山の夜はさぞ寒かったことと思いますが、日帰り登山では体験し得ない感動がたくさんあったのですね。
キャンプ場などではなく山の中に分け入って寝泊まりするというhamayoさんの登山スタイルがおもしろいですね。型にはまらず楽しそうにしておられて見ている私も楽しくなります。
山のいで湯で朝風呂とは洒落こみましたね。平日がお休みですと得をする場面が多くないですか?。くすんでいるとおっしゃる紅葉もけして悪いものではないですよ。露天風呂から見る紅葉の山はすてきでしょう。
to kacchinさん
おばんでおます
いやいや、ニセコはそうでもなかったです。
今年の紅葉は低山ほど良いのかも。
定山渓あたりの山、すごいんじゃないのかな。
うちからは見えないけど。
本領・・・発揮したくなーーーい。
悪天を避けてるつもりなのに、去年より確実に悪天率が上がってるような・・・、間違いなかろう。
ま、雨に当たったあとの温泉は、格別なんですけどね。たしかに。
下りてきてからはそう思えるけど、山の中じゃいろいろと口汚く罵りの言葉を吐きながら歩いてましたよ(笑)。
あ!、そんなこと口にするから、また山の神さんが怒るのか!。
to koyukiさん
今年は標高が低い山ほど紅葉がきれいなんじゃないかと感じてます。
ウチの裏山や天狗山なんて、例年以上に燃えるような紅葉になりつつありますよ。
でも今週末の季節風で全部落ちてしまうかも。。。
温泉はよかったですよ。
北海道はいい温泉ばっかりだと思います。
カンサイは温泉が乏しいのでなおさらそう感じるのかもしれませんが。
五色温泉は何度も入ってるけど、今回ほどいい湯だナと思ったことはないなぁ。
こんな湯に入れるなら、山で冷たい雨に降られてもいいかなー・・・ とは思わないけど(笑)。
やっぱ晴れて欲しい~!
だって元々の計画では、あっちの山に行ってこっちの沼に行ってあそこを通って・・・ってはずだったのに、朝8時半に強制終了だもん。
to あおやぎさん
古っぽいですよね。やっぱ。
「昭和じゃん」と言われたこともありますから(笑)。
「山にいる」という感覚が好きなんだと思います。
そもそも垂直指向ではなく水平指向よりなので、山頂に達するよりも山の中を歩いてるほうが気持ちいいんですね。
できるだけ長い時間山にいるために、山の中で野宿するのかもしれません。
気温は明け方に +2度まで下がりましたが、-32度~ の厳冬期シュラフだったので寒くはなかったです。
シュラフ、これしか持ってないのです。
真夏でも -32度~シュラフなのです。
平日の休みは、おおむね良いことの方が多いけど、道路は平日のほうが混んでますね。
ただの朝風呂ではなく、山から下りてきての至福の温泉が朝一番、というのは初めてでしたが、これもなかなかいいもんです。
おおっ、大学出てこれっぽっちも山は行ってなかった頃でさえ、ハイキングウォーキングで上がったイワヌプ!
まぁ、途中でバ○したーなって戻ったさかいに、火口原は拝んでないんやけど・・・。
ワシャも土曜は黒松内岳かイワヌプ~ニトヌプ~チセ~長沼~神仙沼縦走かで悩んだけど、ナメコの誘惑に・・・(涙)
五色温泉も改装してすっかり湯治宿の雰囲気はなくなりましたな。
露天もエエけど、あの津軽情緒な内湯が好きでしたわ。
学生の頃は(クラスの連れと)露天の岩越しに乗りこんでチョイチョイ湯泥棒してたっけ(汗)
火口原拝んでへんって、そらあんた地獄階段登って帰ってきたちゅーことか。
まさにマゾの真骨頂ですな(笑)。
まー昔はあんなんではなかったけどな。
五色はいまでもちゃんと、露天風呂ちゅーか掘っ立て小屋風呂のほうは残してはるな。
誰も入る人はおらんやろうが。
まーあの頃の五色温泉がいまのニセコに残ってたら、そら奇跡やね。
時代の流れゆうよりは、気象条件があまりにも厳しすぎるな、あそこらは。