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2008 - 8 / 9
八甲田の山に雨は降る
湧き水を汲んでハイドレーションに入れます。
雨がやむ気配はありません。
それでも、ザックの中身を全部ビニール袋でくるみ、腹をくくって上下のカッパを着込んだら、不思議と爽快な気分になるものです。
一種すてばちな気持ちも、時には重要です。
覚悟は決まりました
↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ロープウェイには、ぼくを含めて4組しか乗りませんでした。
天地左右に前後ろ、すべてが灰色の風景です。
いくら人気のコースでも、こんな天気の日に山を歩こうという物好きは少ないのでしょう。
ロープウェイ山頂駅を下りると、すでにそこは標高1300m。
かつてないほどの楽勝登山が予想されます。
歩き始めは木道の敷き詰められた8の字のコースを進みます。
写真はないので、以下の八甲田ロープウェイ株式会社ウェブサイトをご覧になって下さい。
八甲田ゴードライン(八甲田ロープウェイ株式会社のWebサイトです)
http://www.hakkoda-ropeway.jp/lnks/trekking/hakkoda.html
登山客でなくても8の字をぐるっと回るだけで、八甲田の風景を満喫できるようになっています。
湿原にはいくつも花が咲いているようですが、ガスが濃くてなにも見えません。
田茂萢岳の山頂は標識があるわけでもなく、登っていた道はいつのまにか下りに転じていました。
天気が良ければ、田茂萢湿原を眼下に望むことが出来るのでしょう。
8の字コースを離れ登山道に入ると、そこは整備された木道と違い、いきなりヤブが襲い掛かります。
コース全般に言えることですが、腰から下はきれいに空間があいて快適に歩けるのに、上半身にはモリモリ藪が覆いかぶさってる場所が多いです。
しかもちょうど胸から顔にかけて、密度の高いヤブがいやらしく繁っています。
毛無岱への分岐をすぎるとトレイルは南東へ折れ、赤倉岳からの尾根に取り付きます。

雨がしのげる、大きな木の下だったと言うだけの理由で撮った、赤倉岳までのたった一枚の写真です。
なによりぼくを感動させたのは、森の中に浮遊する針葉樹の香りです。
青紫色の球果を付けたオオシラビソ(アオモリトドマツ)でしょうか。
それとも青森ヒバともいわれるヒノキアスナロでしょうか。
何度も足を止めては、清冽な芳香を胸いっぱい吸い込んでみます。
赤倉岳までは標高差250m。
オオシラビソの林からダケカンバ、そしてハイマツ帯へ。
森林限界前後の整った垂直分布の中を、わっしわっしと登ります。
稜線上の1521m標高点では、ロープウェイで一緒だったほかの登山者も休んでいます。
きつい登りはここまでで、ここからは(晴れてれば)楽しい楽しい稜線歩きが始まります。
ふたたび八甲田ロープウェイ株式会社のウェブサイトをば。
大岳登山コース(八甲田ロープウェイ株式会社のWebサイトです)
http://www.hakkoda-ropeway.jp/lnks/trekking/oodake.html
東側の谷から上がってくる生暖かい風を感じながら、小刻みにアップダウンをくりかえす稜線を進みます。
先を歩いていたポンチョ&アンプレラの登山者が、吹き上げる風にポンチョを煽られ立ち往生していました。
抜かさせてもらい先を行きます。
赤倉岳も井戸岳も、標識があるから山頂だとわかる程度で、ここまで天気が悪いと稜線上にあるコブのひとつとしか思えませんでした。
柵の向こうは、斧で割ったようなガケです。

大岳とのコルへ向けて下り始めると、徐々にガスが薄くなり、小さな沼の向こうに大きな屋根のシルエットが見えて来ます。
大岳鞍部避難小屋です。
ちょうどお昼時の小屋の中には5人ほどの登山者がいました。
雨も小止みになっていたので、小屋の外にあるベンチで、かやの茶屋で買ったおにぎりの昼食を摂ります。
風を感じて小屋のほうを見ると、その背後に大岳の姿が現れました。

この日最初で最後の、山が見えた貴重な瞬間。
このまま大岳に登るか、毛無岱ルートでエスケープするか迷っていましたが、この光景を見て大岳への道へ進むことにしました。
大岳へは、ハイマツのすき間を縫って、ごろんごろんと岩が転がる斜面を登っていきます。
山旅後半に来ての大股登りが足腰に堪えます。

そして13時、大岳に到着。
山頂部は平らで、テニスコートくらいの広さの裸地です。
残念なことに、さっき小屋から見上げたときの様子が幻かと思えるほど、大岳山頂は完膚なきまでに雲の中でした。
残念ショット。

何人かいた登山者たちも、三々五々下山していきます。
ぼくはこのまままっすぐ仙人岱へ下りて行きますが、他の人はみな、来た道を引き返していきました。
大岳から仙人岱までは、今回唯一楽しめた場所でした。
赤倉岳の登りと同様に、線を引いたように素直な垂直分布の植生の中、ときに沼が現れ、ときに雨のお花畑を歩き、仙人岱ヒュッテを目指します。
ウサギギク

仙人岱の水場ちかくで残念な光景を見てしまいました。
湿原に敷かれた木道から地塘へと踏みあとが伸び、広く裸地となっていたのです。
おそらくは、木道からすこし離れた場所にある花々を見たり写真を撮るために、木道から降りて歩く人が絶えないのでしょう。
そこまでして撮る花の写真の価値とは?。
このままではいずれ、「花は撮るだけ、採ったらアカン」ではなく、「花は採るのも撮るのも、見るのもアカン」てなことになってしまうでしょう。
そんな悲しい仙人岱の湿原の奥に、仙人岱ヒュッテがあります。

大岳鞍部避難小屋のような明るさはなく、草木の海にひっそりと埋もれていました。
雨の山旅も、いよいよあとは酸ヶ湯へと下るだけです。
標準コースタイムは45分。
予定では、「のんびりと下りていきました。めでたしめでたし」で終わるはずでした。
ところが、この平凡な(と思っていた)下りに、2時間も費やしてしまったのです。
写真を撮ったせいでもなく、休憩をとったせいでもなく、ほぼ歩き通しで2時間です。
時計が狂ったんじゃないかと思ったほどです。
仙人岱の木道が終わると、緑の森が後退し、岩と石とで埋め尽くされた谷沿いの道を下りていくようになります。
地獄湯の沢です。

息苦しいほどの硫化水素の臭気がたちこめるこの谷には、生き物の気配が感じられません。
それでもよく目を凝らして岩の表面を見てみると、地衣類のたぐいが健気に根を下ろしています。
その名もユオウゴケ(イオウゴケ)

地球上、いたるところに生物有り。です。
谷の向こう、道の先に酸ヶ湯温泉と思しき建物の影が見えてきます。
ここからが本当の地獄の始まりでした。
濡れてすべるゴロタ岩やヤブ、それだけならまだいいです。
泥沼が深すぎて、木道はイカダのように浮かんでいます。
土留めの木柵や木の階段は、あたりの土が流されてしまい、陸上競技のハードルのように行く手を阻みます。
ロープウェイを使った罰とも思えるようなこの仕打ち。
もはやこれは、人工的に作られた悪路です。
ブナの森の向こう、道路を走る車の音が聞こえたときは、安堵のため息とともにその場に座り込みそうになりました。
赤い鳥居をくぐってゴールイン。
アゴを出す、とはこのことか。

一日中カッパを着続けた山歩きは、初めての北アルプスで、台風の中登った白馬岳以来です。
ぼくと悪天候との蜜月は、思えばそのときから始まり、今日までずっと変わらぬ間柄です。
山にいるときは、なんでこんな天候の日に自分は山にいるんだと憤懣をほとばしらせているのに、帰宅後こうして思い返している今は、存外「悪くない」という心境です。
どうせこれからも、悪天とぼくとの親密交際はつづくだろうから、悪天を楽しむくらいの気持ちにならないといけませんな。
八甲田大岳コースGPSトラック

八甲田大岳コース断面図

投稿者 hamayo : 2008年8月 9日 21:56
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雨天決行おつ。
いや、因果応報とはまさにこのこと。。。(笑)
ワシはいつになったら許されるのか・・・。
オサーンもたいがいやと思うんやが、なんでワシだけが!
どーも、おばんでしゅ。
待ってました!この展開~、やっぱしカッパ姿がよく似合いますのう、子爵殿下!
天気が良かったら、スンバラシイ眺望なんでしょうが・・・コレはコレでヨシです。
まぁ、それはネタとして・・・こういうのって、時刻表とにらめっこしながら立てる、計画段階からめっちゃ楽しいのよね、そして実行へ・・・そこには計画から実行まで脱クルマ旅ならではの楽しさがありますよな~(こういったクルマを置くうんぬんを気にしない縦走なら尚更だよね)。
積丹岳のときのkacchinさんのコメント、
「終始カッパ着用の子爵殿下の姿を見たいんだけど」
が現実になって、k望んではった通りになってしもうたわい(笑)。
いやはや、バケツパワーで吸い取られた北海道の雨雲は、こないして遠隔地で放出されてるわけですな、ふむふむ。
若かりし頃の山旅は、ぜんぶ列車やバスの利用だっただけに、こうしてひさかたぶりに同じようなことをすると、おセンチ・まうんてん・じゃーにー な気分です。
北海道の山の多くは、クルマなしには考えられない場所も多いから、クルマ旅を否定するつもりはじぇんじぇんないんだけど、家の玄関を出るときに登山靴の紐をグッと締め、帰ってきてまた玄関で紐をとき、登山靴に「お疲れさん」と話しかけるひとときは、やっぱ格別の趣があるもんです。
雨男のhamayo様、こんばんは。
雨天でも美しいお写真がたくさん撮れましたね。
私の見たことないお花をいつも見せて頂けるのでお勉強になります。
ところで「柵の向こうは、斧で割ったようなガケ」の前に立ってみえるのはhamayoさんですか~?
雨男のhamayoです。
酷使される山道具であっても物持ちのいいぼくですが、カッパだけは今のが5着目です。
お花は雨の日の方がしっとりとして綺麗ですね。
なかなかカメラを出す気になれないのが難点ですが。
ガケの前に立ってるのはぼくですよ。
やる気の無さがみなぎってるスナップです。
八甲田は美しい山です。晴れの天気に登ってほしかったです。でも雨の森も美しいです。
毛無岱を歩かれなかったのですね。それは少し残念なことをしました。
上毛無岱から望む下毛無岱の湿原は青森の山の最も美しい風景です。なにぶん昔のことなので今は変わっているかもしれませんが、また行く機会があったら是非こちらを歩いてみてください。
雨の登山でもちゃんと見るところは見ていますね。八甲田山の垂直分布。観察は知への第一歩です。
オオシラビソの森は八甲田山を代表する景観です。亜高山帯針葉樹林があってこそ日本の高山です。
同じ青森でも岩木山ではオオシラビソの森は育っていません。多雪の東北地方日本海側では亜高山帯針葉樹林がない山域は他にもありますが近代以降に溶岩を流すような噴火があったたことも影響しているようです。
亜高山帯針葉樹林がない山には懐の深さや層的美しさが欠如しているので、私にとっては岩木山はつまらぬ山です。
登山の対象としては征服欲を満たすいい山だと思います。
私はもう山頂をめざすような登山はできなくなりましたが、歩けなくなる前にもう一度八甲田の森を見たくなりました。hamayoさんいいレポートをありがとうございました。
毛無岱湿原、ホントに後悔してます。
他の人にも言われました。「もったいない」って。
少しはガイド本みたいなのも読まないとダメですね。
しかもぼくが下山に使った道は、某ヤマ地図では一般コースになってない・・・。
> 雨の登山でもちゃんと見るところは見ていますね
いや、雨と霧で山も湿原も見えなかったから、ですよ(笑)。
垂直分布がきれいに変化していく山は好きですけどね。
高度が上がっていくのを実感できるので、見上げるような急登でも、展望の利かない尾根でも、植生の変化が励みになります。
岩木山は行ったことがないので分かりませんが、すぐ近くにある同じような高さの山でも、形も違えば植生も違う。
いろんな山があるから登山って面白いんでしょうね。
どうして違いが出来たのかとか、なぜ針葉樹林がないのかとか、そういうのにはとても興味はあります。
そういうのを知った上でまた再び山を歩くと、違う楽しみがあるんでしょうね。
コースタイムはさらに長くなりそうだけど・・・(笑)。